エラナ・テ・ハエアタ・ブレワートンさんに対する入浴拒否に対する私たちの立場


2013年9月20日
新聞・テレビで報じられたように、2013年9月8日午後、ニュージーランドの先住民族マオリの言語専門家エラナ・テ・ハエアタ・ブレワートンさんが北海道恵庭市の温泉施設で入れ墨をしているという理由で入浴を拒否されました。

私たち、アオテアロア・アイヌモシリ交流プログラムは、アイヌ民族とマオリ民族との交流を目的に設立された団体で、本年1月21日から約5週間、9名のアイヌがアオテアロア(ニュージーランドを意味するマオリ語)を訪れ、マオリ民族の文化・権利回復の取組みを研修してきました。その研修で私たちが学んだマオリ語教授法テ・アタアランギをアイヌ語学習に応用して、アイヌ語復興に役立ちたいと来日されたエラナさんを講師として、私たちは北海道各地でテ・アタアランギ講習会を開催しました。

今回のエラナさんに対する入浴拒否は、異文化に対する無関心・無知から生まれたものであると同時に、先住民族が持つ、固有文化継承の権利を踏みにじるものです。マオリの人たちにとって入れ墨(ター・モコ)はタオンガ(宝物)と位置づけられる伝統文化であり、聖なるものです。マオリ伝統文化の復興に伴って、ター・モコも復活しました。エラナさんの唇の入れ墨はマオリ語を話せる人だけが入れることのできるもので、ヨーロッパ系入植以来の英語支配から、1970年代よりマオリ語復興を成し遂げた証であり、あごの入れ墨は、先住民族マオリが自らの力で文化と誇り、権利を回復した象徴なのです。

入浴を拒否した温泉施設が、入れ墨立ち入り禁止のルールを設けていることは、エラナさんも理解されています。しかし今回の入浴拒否がそうした象徴である入れ墨に対する理解を持たずに、マオリの人たちの尊厳を傷つける結果となったことにぜひ思い至って欲しいのです。無知から生まれた行為であったならぜひ学んで欲しいし、今回の件を多様な社会・世界で一律のルールを課すことがどんな問題を引き起こすのかの教訓にして欲しいのです。

アイヌ民族にも女性が口のまわりに入れ墨をする伝統がありました。しかし明治政府により禁止され、入植した人々からの差別に泣いたたくさんのアイヌ女性がいたことはいまも私たちの記憶に残っています。エラナさんに対する入浴拒否は、アイヌ民族が被った悲痛な歴史と重なって、私たちアイヌは深い悲しみにとらわれています。

菅官房長官は今回の事件に関して、「2020年に東京オリンピックが開催されるにあたり、さまざまな国の方が多数、日本に来て頂くことが予測されるので外国のさまざまな文化に対して敬意を払い、理解を推し進めていくことが大事だ」と述べたとのことです。しかし、問題は外国の文化のみに関わるのではありません。日本人、外国人を問わず、人間が普遍的に持つ人権とは何かを理解し、そのうえで、先住民族、その他の少数民族・集団が持つ権利に対する敬意と理解を育み、それを実現していく社会を創り出すことが必要です。

こうした観点に立って、日本社会がこの事件を契機に、先住民族に対する意識を高め、その伝統文化を尊重し、権利実現に向かうことを切望いたします。

アオテアロア・アイヌモシリ交流プログラム
実行委員会代表 島田あけみ 
アオテアロア研修参加者一同