このプログラムは、マオリ国会議員テ・ウルロア・フラヴェルさん(マオリ党所属)が企画し、AMO(マオリ機会向上のための団体)や、その他ニュージーランド各地のマオリのコミュニティが協力して作り上げた、アイヌ民族のためのプログラムです。これまでアイヌ民族とかかわりを持ったマオリの人たちの善意、熱い思い、友好と連帯の精神によって生まれたプログラムです。
このプログラム実現のために、その趣旨に賛同する者がアオテアロア・アイヌモシリ交流プログラム実行委員会を立ち上げました。この委員会は、既成の団体を代表する者の集まりではなく、あくまでもプログラム実現に意欲を持つ個人によって構成されています。
アイヌ民族政策の立案が途についたばかりの日本と違って、ニュージーランドでは1970年代以来、マオリの人たちの努力で権利回復が進みました。マオリ民族はニュージーランド社会のなかで、経済、社会、文化、政治、それぞれの分野で大きな力を発揮しています。マオリ語はいまでは英語と並んで公用語です。
先住民族としての伝統・価値を維持しながら、社会進出を果たしているマオリの人たちの姿に接することは、アイヌの研修参加者にとっては大きな刺激になるはずです。さまざまな困難と闘いながらアイヌとしての長い道のりを歩んできた者、アイヌとしての道をいま歩き始めた者、そして、アイヌの道へのとば口に立って、アイヌであることの意味を模索している者--アイヌであろうとする者であれば、このプログラムに参加することによって得られるものは大きいと思います。
とりわけ、アイヌであることの意味を模索している若者に参加してもらい、アイヌの道に一歩踏み出すきっかけにしてもらいたいと私たちは願っています。それは、いまなお根強く残るアイヌ差別を怖れて、あるいはアイヌであることの意味を見い出すことが出来ずに、アイヌでありながら、アイヌとして名乗らない人たちが多くいるからです。北海道庁の調査では、アイヌ人口は約2万4千人ですが、実際にはその数倍と言われています。首都圏には、5千人から1万人のアイヌが暮らしていると言われていますが、アイヌとして活動している人たちは100人足らずです。
このプログラムに参加した者が、アイヌであることの意味をより自覚し、アイヌの道をさらに力強く踏みしめることになれば、アイヌ民族の新しい未来が切り拓かれるはずです。そして、そのことが同時に、日本の社会を多元的な価値がより尊重される公正な社会へ方向づけるきっかけともなると信じています。
私たちは、このプログラムを今年度限りのものではなく、将来にわたって継続するものにし、さらに派遣だけではなく、マオリの人たちを受け入れる相互交流のプログラムに発展させ、アイヌ民族とマオリ民族の国際連帯の絆を深めていきたいと願っています。